---------------------------------
詩のようなものを書いています。
気が向いたときにぽつぽつと。
---------------------------------
2018/5…久々に更新
Calendar
S M T W T F S
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031   
<< October 2018 >>
NewEntry
Profile
Category
Archives
Comment
Search
Link

Et cetera
----------------------------
CLAP!



Favorite
Mobile
qrcode
Sponsored Links






<< うららと巡る main ありったけの奇跡 >>
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています



 押して頂けると励みになります。
2018.05.22 Tuesday 
- -
トレード コース1 『遭遇』5


誰かが呼んでいる。
でも、遠い。何度も、何度も、その声はおれを呼んでいるけど、遠くて全然聞こえない。

……ヨ。

違う。

……ヨ!

違うって言ってんだろ。

……起きろよ!

「……なつお!」


ぱちっ。目が開いた。
「あ…?」
また、悪夢のファンシー部屋だった。
そして傍らには、神妙な顔つきで正座している「ケイくん」。何度、目を覚ましても、これはもう夢にはなってくれそうになかった。
絶望が、自分の内から溢れている。だけど、涙は出てこなかった。横たわっていた身体を、重たく持ち上げる。だるい。けど、思っていたより身体自体は軽くて、すんなり持ち上がった。
「……あの………」
「ケイくん」が、躊躇うように口を開いた。けど、その後は何も言えないようだった。戸惑いと恐怖が瞳に宿る。
「……ケイくん、て、いうのか」
おれはちょっと諦めも手伝って、とりあえず状況を把握してみよう、という気持ちになり始めていた。たぶん、何か原因があるはずなんだ。とにかく、どうしてこんなことになったのか、それを調べなくては前に進めない。はじめは混乱するだけの頭だったが、何度も悪夢を体験して、おれはやや達観した気持ちになっていた。
「ケイ、は、名前?」
とにかく、自己紹介だ、とおれはさらに尋ねた。
「……ほんとに、わかんないのか」
「だから、聞いてるんだ」
「おれ。おれは、そう、ケイは名前。苗字はフカサワ。フカサワ、ケイだよ」
「ふかさわ、けい」
どんな字だ、と聞くと、青年は一瞬戸惑ったような顔をした。それから、手近にあったウサギのイラストが印刷されている可愛らしいメモ帳を拾い上げた。胸ポケットから、青いボールペンを取り出す。ピンクの紙の上に、さらさらと名前を書いた。
そこには、「深沢 啓」と書かれていた。
「深沢、啓」
もう一度、復唱してみる。
「おまえさ」
不意に啓が言った。
「なに?」
「さっき、なんとか、ナツオって、言ったろ。あれ、何」
「なにって、おれの、なまえ」
「ふざけんなって、おまえの名前は、チヨカだろ」
なるほど、チヨは愛称でチヨカが本当の名前なのか。変なところで、納得する。
「チヨカ。フルネームは?」
「………オウミ、チヨカだよ。忘れんなよ。おまえの名前だろ」
「どういう字?」
「あのな…」
焦れたように、啓が言いかける。「どういう字を書くんだ」言葉を重ねて、遮った。
ふざけて言ってるんじゃない。真剣に聞いてるんだ。
そう、訴えたかった。
おれの、そんな気持ちを察したのかどうかは知らないが、啓はまたペンを取ると、自分の名前の下に「近江 千代花」と書いた。
「なるほど。それで、おまえと千代花は、どういう関係なんだ?」
「どういう、って……」
「つきあってんの?」
「はあ?」
「じゃ、幼馴染だ」
「………ああ」
「で、ここはどこ?」
啓は、すっかり滅入っている、という顔をした。眉が八の字になって、目じりが垂れ下がってゆく。日焼けているから、はっきりとはわからないが、青ざめているようでもある。
だけど、本当に滅入って、絶望して、ビビってるのは、他でもないこのおれだ。
「東京?」
ちょっとずつ、聞いていくことにした。一気に聞いたって、お互い混乱するだけだ。少なくとも、啓は血のかよった人間に見えた。きっと、ここは、びっくりするほどの異世界じゃないはずなのだ。
「ああ、東京。目黒だよ」
「目黒」
なら、もといたところから、そんなに遠くない。そう思って安心しかけたが、はた、と気づく。おれは、終電近い電車に乗ったんじゃなかったっけ。でも、目を覚ましたときは朝。
ざーっと、昔見た映画のシーンが思い出される。たしか、なんとかってレンアイものだった。主人公のローカル局のアナウンサーの男が、ある一日を何回も何回もくり返すことになる話だ。男は、地方の仕事に不満があって、時間を何回もやり直せることに気づくと、気に入らないやつに悪戯したり、意中の女性を口説いてみたりと、やってみたかったことを実行していく。だけど、段々同じ時間をくり返すことが苦痛になってきて、何度も自殺を図るのだ。だけど、そのたびに時間は戻ってしまって、死ぬことも出来ない。男は、どんどん狂気じみていく。
(時間はどうなんだろう)
結局、あの映画はハッピーエンドだった。だけど、おれの頭には、気が狂いかけた男のシーンだけがフラッシュバックしていた。
(まさか、まさかだろ。これ以上、おれをどうしようっていうんだ)
「なあ」
勇気をふりしぼって、傍らの啓に声をかける。声が、震えた。だって、もし、ここが未来だったりしたら、おふくろはもういないかもしれない。
「今、平成何年?何月何日だ?」
これには、さすがに啓の脳の回路も、ショートしたようだった。多分、平静を装ってはいるが、彼も結構、いや、かなり混乱している。
「あ、頭痛い……」
本当に頭が痛いかのように、こめかみを押さえてみせる。実際、本当に痛むのかもしれない。だけど、おれだって、回路が焼き切れる寸前なんだ。
「頼む、教えてくれ。いまは平成なんだな?」
「勘弁してくれよ……本気で気分悪くなってきた。そうだよ、今日は平成××年7月3日。もうすぐ夏休みだ」
「7月3日」オウムのようにくり返した。ということは、おれが電車に乗った次の日だ。よかった。時間は動いてないんだ。身体が弛緩する。全身をしばりつけて、操り人形みたいに吊り上げていた糸が、するするとほどけていくみたいだ。力が抜けた。
がっくり脱力したおれの様子をみて、啓は「なんなんだよ」と呟いた。文字通り、頭を抱えてうな垂れる。
「おまえ、一体、何なわけ?」
「おれは……」
「千代花じゃないのかよ」
「ないよ」
「じゃ、何なんだよ」
「おれは、おれの名前は、高坂夏生。都内の大学に通ってる、大学生だ」
今度は、はっきりと、啓が青ざめているのがわかった。だけど、ここで信じてもらわなければ、話が先に進まない。ダメ押しで、字も、ピンクのメモ帳に書いてみせた。
それから、電車に乗っていて気がついたらこうなっていたこと、信じてもらいたくて、大学のこと、バイト先のこと、つきあってたけど別れた彼女の話までした。
啓は、終始黙って聞いていた。相槌も打たなかったし、ひと声も立てずに、聞き入っているようだった。
「………信じて、もらえないかもしれないけど、本当なんだ」
言うことだけ言いきって、最後におれがそう言うと、それきり部屋は熱心な勉強家が集まる図書館みたいになってしまった。
啓は、固まったように動かず、声もださない。短い時間だったかもしれない。けど、とてつもなく長く感じた。これで、もし、本気で頭がオカシくなった、なんて思われてしまったら、すごく怖いことになる。それだけは、確信があった。
「あのさ」
突然、啓が口を開いた。
「あのさ、もし、万が一、あんたの言う通りなんだとしてもさ」
「うん」
「本当のチヨは、どこにいったんだ?」
「え?」
真摯な目が、おれを貫いていた。そうだ。考えていなかった。おれが千代花になっているということは、彼女はここにいないってことで。
「どこ、って」
「チヨを、どこにやったんだよ」
まるで、責められてるみたいだ、と思った。だけど、その通りだ。千代花はどこにいる?考えろ。考えろ。カーテンを揺らしたしなやかな風が、耳をふさぐ。思考が、膨れ上がる。
自然に考えて、一番の可能性―――……。
「まさか…」
「え?」
それしかない。直感だった。けど、きっと、間違ってない。
「まさか、おれの、身体に?」


……トレード コース1・『前進』6へつづく……



 押して頂けると励みになります。
2008.04.12 Saturday 09:11
トレード コース comments(1)
スポンサーサイト


 押して頂けると励みになります。
2018.05.22 Tuesday 09:11
- -
comment
なんだかSSのはずが長編になってますね…。
申し訳ない。

4月から、新しい環境にぶちこまれました。今はなんとかなじめるよう頑張っているところで、なかなか更新ができずにいます。
自由気まますぎる管理人ですが、この先ものんびりお付き合いいただけると幸いです。
シオ 2008/04/12 9:16 AM




/PAGES