---------------------------------
詩のようなものを書いています。
気が向いたときにぽつぽつと。
---------------------------------
>>>祝・10周年<<<
Calendar
S M T W T F S
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930 
<< June 2017 >>
NewEntry
Profile
Category
Archives
Comment
Search
Link

Et cetera
----------------------------
CLAP!



Favorite
Mobile
qrcode
Sponsored Links






スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています



 押して頂けると励みになります。
2017.05.07 Sunday 
- -
『安眠事情』




「あ、おはようございます。荻原さん」

突然、後ろから声がかかって、僕は思わず身を竦めた。

「お、はよう。柳さん…」

振り向いて、声の主を見る。
正面玄関の踊り場で、僕らは向き合った。

柳ミサキ、という女性だ。しゃきっとした姿勢の良さで、そのまま見上げてくる。くるくるとした髪が、少しの風でふわふわと揺れた。
彼女は、僕とは同期の同僚で、「恋敵」だ。

ぽーん、とエレベーターが鳴って、ドアが開く。
気だるく乗り込むと、ミサキはドアが閉まるのを待っていたように口を開いた。


「なんだか、元気ないよね。昨日、ちゃんと寝た?」

覗きこむ顔を、直視できない。顔をそらせて、答えた。

「寝たよ」

「ほら、なんかそっけない。やっぱりこの頃、元気ないよ」

「そうかな…」

(ほっといて欲しいだけだ)

「じゃあさ、今度、一緒にどこか行かない?」

「なんで?」

「なんでって……ちょっとひどくない?一応、付き合ってるのに…。温泉とかさ。疲れとれるんじゃないかなーって」

「それ…旅行ってこと?」

とんでもない、と思った。彼女と話しているとひどく疲れる。はあ、疲れた、って程度じゃない。朝から疲労困憊の体だ。できることなら、会いたくないとすら思っているのに。
それが、旅行だって?

(冗談じゃない…)

うんざりした。5階で止まったエレベーターのドアが開く。
まだ何か言いたげなミサキを置き去りにして、さっさと降りる。近場のドアから部屋に入って、そのまま自分にあてがわれたデスクに向かった。





君が「引っこんで」しまってから、もうひと月が経つ。
君がしていた「テレホンアポインター」って仕事を肩代わりして、やっとひと月だ。

必ず、戻ってきてくれると信じている。
僕のオリジナルである君が、そんなに弱いはずがない。

弱いはずはないんだ。


隣の席に、ミサキが座った。

「ねえ、どうしてあたしのこと避けてるの?」

小声で、不安げにささやく。

その声が、嫌いだった。本当に、大嫌いだ。

どうして、こんなに感情が乱れるのか。理由はわかってる。でもどうにもならない。ただ、頭の芯が熱くて、焦げつく。イライラと、鞄をほうりだしてインカムを耳に押し当てた。
ミサキはそれを見ると、ひとつ溜息をついて席を離れていった。


電話が鳴る。誰かが応対する。

部屋中で、誰かが常に喋っている。

頭痛がするような気がした。


――なぜ、彼女を避けるのか?
答えはとっくにわかっている。これは、嫉妬というのだ。

(もう、いっそ)

そうだ、いっそ。

(分裂してしまいたい)


--------------------------


哲也。


――誰かが呼んでいる。

その声は、若い女のようにも聞こえたし、今はもういない母親のもののような気もした。

哲也。

――やめてくれ。まだ、寝ていたいんだ。起きたくない。

だめだよ、哲也。

強く責めるような声が、眠った頭の一部を叩いた。

もう、起きよう。もう、起きようよ。

――いやだ。おれは、目を覚ましたくない。

涙が出る思いで、一心に拒絶した。目を、覚ましたくなかった。

どうして?悪いことばかりじゃないよ、世の中は。
良いことも、悪いことも、生きている中で半々なのは、普通のことなんだよ。


声は悲しげな色を帯びて、語りかける。それはまるで、諭すように。

――そんなこと、わかってる。そうじゃない。

必死にかぶりを振った。

――起きたくない理由は、本当はそうじゃないんだ。

本当は、気づいていた。

父が、母が、いなくなったからといって嘆いていたわけじゃない。

おれは、なにも世を儚んだり、人生に疲れたり、そういうことで命を投げ出そうとしたんじゃなかったんだ。


「戻ってきてくれないと、困るんだ」

急に明確な音が、耳を焼いた。
どこかで聞いた気がする、と曖昧に思う。
なのに、よく聞きなれた声だ、とも思う。
そんな、声。

「どうして戻りたくないんだ」

責める声が、響く。

「こっちには、君を待ってる人がいる。彼女は、君でないとダメなんだよ。どうして、帰ってこない」

――どうして?

「どうして?」

問う声が、優しく耳うつ。

ああ、この正体のわからない声になら。

この思い、打ち明けようか。


そうすれば、少しぐらい、楽になれるかもしれないから。

――だって、三回目なんだ。


「さんかいめ?」

――三回目、あいつに会ってしまったら、あいつはきっと姿を消してしまう。いなくなってしまう。


「いいじゃないか。君を脅かす存在だよ、ドッペルゲンガ―なんてものは」


――だって、おれは「鉄」と離れたくない。



――「鉄」とだけは、別のものになってしまいたくないんだ。



彼女に、恋した。それは確かだ。
そして、その恋が、あいつとおれとを分けると、あいつが言った。

3回、出会ったらおれになりかわると言ったのは、あいつがおれから本当に分裂するということだろう。

本当に、決別をするということだろう。

おれが目を覚ませば、あいつは。

きっとおれとは別のもの。
分裂して、二度と同じものにはなれないでしょう?


――そんなのは、絶対に、絶対に



――絶対に、嫌なんだ。




-----------------------



目が覚めた時、おれの左手を握っていたのは、自分の右手だった。胸元で重なった両のてのひらが、わずかに湿っている。

横たわったまま見渡すと、白い壁。そこは病院の個室だった。

ああ、目覚めてしまったんだ。決別、されてしまったんだ。

喪失感と絶望が、喉元で新鮮な空気を奪って、息が詰まった。

もう、戻れない。

涙があふれて、視界が滲んだ。


「これで、3回目だよ」

不意に、声がした。

声のした方を、見る。傾けたこめかみに、雫がポロリ、こぼれた。


あいつが、窓際に立っていた。


いつもの無表情で、「物好きだね」と囁いて。



ドッペルゲンガ―抄『安眠事情』哲也と鉄


 押して頂けると励みになります。
2007.10.19 Friday 21:22
ドッペルゲンガー抄+α comments(2)
『共存事情』



簡単に決められるものなら、どんなに楽だったろう。


こうして、あんたの隣にいることが俺には分からない。

なぜ、あんたが俺の存在を許すのか。

俺の許容範囲を超えた答えが返ってきそうで、いつになっても聞けなかった。
ただ、恐ろしかった。


いつかくる、別れを思うと。



---------------------------------------------


「何か飲もう。何がいい、イチ」

薄闇のなかで、始が言った。

「甘いの、嫌いだっけ。ああ、おれが好きなんだからお前も好きなのかな。モモとかでいいか?」

そう言って、まるで、気の置けない友人にするように始は笑った。

七月の半ば。ニュースは温暖化を叫んでみたり、避暑地の魅力を謳ってみたりに忙しい。
例外なく、回る世界。それは夏の盛りを喜んでいた。

「ハジメと同じでいい」

答えないでいた俺の顔を、始が覗きこもうとしたので、あわてて短く答えた。
青年はにっこり頷いて、背をむける。

始が飲み物を買いに行くのを見送って、目深にかぶった帽子をいっそう深くかぶりなおした。
帽子のつばの下で、薄暗い証明だけがチラチラとゆれる。

今日は、水族館に来ていた。


二人で過ごす、二度目の夏。


今朝それを何気なく口にしたら、なんの記念だか知らないが、始がお祝いをしようと言い出したのがきっかけだった。
丁度、始も仕事がひと段落ついていたところで、どこかに羽を伸ばしに行きたかったのかもしれない。


そう思うと、本当は出かけたくなんかなかったけれど、嫌だとは言えなかった。


ため息をつく。
壁一面の水槽のむこうで、同じ形をした魚の群れが泳いでいた。

(おまえら。みんな同じ姿だってことに、抵抗はないのか)

全部、同じ姿。全部、同じもの。
見ていると、吐き気がした。

(俺よりは、マシか)

同じように見えても、DNAが違えばまったく同じなわけがない。
魚に何を思っているのかと、情けなくなって目を逸らした。


そこに、始が帰ってきた。

「モモはなかったから、リンゴにした。嫌いじゃないだろ?おれ、リンゴ好きだもんな」

楽しげに紙コップを差し出すと、どこかに座ろうと近くの休憩所を指差した。

黙ってついていく。きっと俺は、すごく嫌な顔をしているだろう。帽子で隠した顔を見られまいと、限界まで帽子をひっぱった。

どんなときでも、顔を見られるのはいやだった。
口にしたことはなかったが、ほかの誰にでもない、始に見られるのが嫌でしかたなかった。

それは、俺があいつと同じ顔をしているからだ。

ただ、それだけではないけれど。


さかな、が目の端でゆれる。

どんどん気持ち悪くなって、頭も痛くなってきた。思わず、足を止める。
下を向くと、床が歪むようで目がまわった。

「イチ?」

気づいた始が、かけよってくる。

(うざい。くるなよ、なんでもない)

そう言おうと口を開いたけれど、出たのはまったく違う言葉だった。

「なんで、コピーのことなんか心配するんだ」

「コピー…って、お前がおれのドッペルゲンガーだってこと?だって、それは…」

「俺はお前なんだぞ、気持ち悪いのがあたりまえなんだ。双子みたいに血がつながってるわけじゃない、突然現れた怪異だ。わけのわからない自分の存在が二つあるなんて、恐怖でしかないじゃないか。それなのに、どうして追い払わない。殺そうとしない。自分の存在を守りたかったら、拒絶するしかないんだ。ばかだ、お前は」

突然わめきたてた俺に、始は少し面食らった顔をしていた。

けれど、すぐに真顔になって言った。

「二年も一緒にいといて、いまさら何言うんだ。おれはお前を殺したりしない。お前もおれなら、そのくらいわかるだろう」

「わからない」

「突っぱねるなよ。おれはわかるよ。お前がなに考えてるかって。お前、自分の顔が嫌いだろう。俺と同じ顔だから、それはわかるけどそれだけじゃないよな。お前、びびってるんだ。おれのコピーだって思い知らされること、怖がってるんだろ」

何も言えなかった。

まっすぐに言い当てられて、たじろぐ。図星だ。見透かされていた。

右手の紙コップが、震える。
俺はずっと、怖かった。異端をいつか突き放すときがくるんじゃないか。そう、いつも疑っていた。始の真意を、ずっとずっと疑っていた。

動揺を隠せない俺に、始はそっと近寄って言った。

「おれは、自分でもわからないけど、お前のこと怖くないよ。それでいいじゃないか」

そうして、屈託のない笑顔に戻る。


決して、簡単に言っているわけではない、と思う。
だって、俺なら簡単にはそんなこと言えない。絶対に、言えない。



あっという間に、さっきまでの憂鬱がすっかり吹き飛んで、喜びがあふれだした。

我ながら、なんて単純なこころなんだろう。

ただ、まだ少しごねてみたい。

「……双子だなんて言い訳、長く続くわけないんだ。戸籍だってない。存在の証明がなくちゃ、そのしわ寄せがお前にいくばっかりだ。損ばかりだよ」


こんな質問、なんて答えるかは、きっと知っている。

だけど。


「損なもんか。一人じゃ終わらない仕事を、もう一人のおれが手伝ってくれるんだぜ。大歓迎だよ」

そして、いたずらっぽく付け加える。

いつもの笑顔で。


「まあでも、そういうわけだからさ。これからもよろしく頼むよ、相棒」





ドッペルゲンガー抄『共存事情』始と一 


 押して頂けると励みになります。
2007.05.11 Friday 14:42
ドッペルゲンガー抄+α comments(1)
『分裂事情』


ある朝、弟が言った。

「あなた、誰?」

言われて、初めて気がついた。
そうだ、ボクはキミの兄ではなかったんだ。

-------------------------------------


ボクが生まれたのは、春も終わりに近づいた日。
遅咲きの桜も、もうすっかり散って、緑の葉が芽吹く頃のことだった。

彼は、恋をした。
同じクラスの、華奢で大人しい少女。いつも薄い文庫本を持ち歩いていた。
その少女に、彼は恋した。

始まりは、実に些細なことだ。
彼が彼女の本からひらりと落ちた、しおりを拾った。
それがきっかけで、彼は彼女と会話をし、そしていつしか恋に落ちていた。

ボクが生まれたのは、そのときだ。

ただし、「生まれた」と言うと実は語弊がある。
ボクはそれ以前から、彼の中に存在していた。
その朧な存在が、そのとき鮮明に浮き上がったと、そう言ったほうが正しいかもしれない。

とにかく彼の恋は、ボクを生む力だった。
ボクに理解できない、恋、という感情。
それが、彼とボクを切り離してしまったのだ。

しばらくは、そのことに気がつかなかった。
気づかずボクは、彼の身体をいつのまにか我が物にしていた。

だけど、今はっきりと気づいた。
――気づかされた。

「あなた、誰なんですか?」

弟がそう、疑いの眼差しでボクを見た瞬間に。

そうだ。ボクはもう、キミとは袂を分かってしまったんだ。
もう、同じものではいられないんだ。

もう、同じ場所で生きてはいけない。

もう。
生きていては、いけないんだ。



恐怖と疑惑がない交ぜになった顔をしながら、それでも目を逸らさない弟に、ボクは僅かに微笑んでみせた。

「ボクが、マナブじゃないって……よく、わかったね」

彼の学校の友達も、両親も、兄も、そしてボク自身すら気づかなかったのに。

「兄さんは、どこ」

怯えたように揺れる瞳。
また、ボクは笑った。

「明日になったら、帰ってくる」

それだけを告げて、弟に背を向ける。

朝は、必ず来るだろう。
別れのときだ。ボクは気づいてしまった。

「さよならだよ、マナブ…」

手は、硬く握りこんでいた。


悟っていた。

朝がくれば。


もう、キミには会えないのだと――。


----------------------------------------


日差しが、瞼に落ちた。

カーテンから漏れる光。朝だった。

まだあどけなさの残る少年は、いつもどおり目覚めて、気だるそうに目元を擦った。
時計を見ると、7時半をまわっている。

ふいに、誰かがドアを叩いた。遠慮がちな叩き方だ。
思い当たって、声をかけた。

「真か?」

おずおずと、ドアが開く。思ったとおり、弟の真がそこに立っていた。

「兄さん……。本当に、兄さん?」

一瞬、弟が何を言っているのかわからない。

「なんの話?」

首をかしげていると、訝しんでいる様子だった弟の顔が徐々にほころんだ。

「よかった、兄さんだ。ううん、いいんだ。なんでもない。朝ごはんできてるって、母さんが呼んでる。早く降りてこいって」

言うなり、ぱたぱたと駆け出していく。

「なんだ、あいつ…」

不思議に思いながら、もう一度目元を擦ろうとして、手を止める。

手のひらを見つめた。(ここに、何かを掴んでいた気がする)
何か大切なものを、強く掴んでいたような。

そのとき、無意識に擦っていた目元が痛むのに気づいた。
目の奥も痺れている。瞬きするたび、じっとりと痛む。

(まるで、一晩泣き明かしたみたいだ)

思った、次の瞬間。突然、頭の裏側に映像が浮かんだ。

それは暗闇の中、声も立てずに泣く、自分。


その幻像は、たちまち消えうせて断片も残らなかった。
本当に、一瞬の幻のように。

ただ、記憶にはしっかりと写りこんでいた。
目の裏に焼きついたように、離れない。

「誰、だ?」

誰にともなく、呟いた。

声は、うっすらと明るんだ窓の外の空に吸いこまれて消える。
そう、気づかぬうちに。
気づかぬうちに、消えてゆくのだ。

ここにあったはずの、誰かの、存在のように。



ドッペルゲンガー抄『分身事情』マナブとガク


 押して頂けると励みになります。
2007.03.26 Monday 18:12
ドッペルゲンガー抄+α comments(1)
『入替事情』


もう、飽き飽きしていた。
母は死んで、父も行方が分からない。

周りを取り巻く人間は
撫でるようでいて 
優しさの微塵も感じられない。
それどころか
向けられた感情にさえ 気づいていない。

所詮、何を望んでも
同じってことだ。

何を食べても
吸収されないエネルギーのように。

実際、堕ちるだけが残された道だったのかもしれなかった。
それに気づかぬ振りをして、細い糸に縋っていた。自分が滑稽でしかたない。

足元の、ネオンが無作為に煌いて
頭の温度を下げていく。

(終わりだ)

そう、冷え切った頭で思った。

足を一歩、踏み出す。

高いところに吹く風に、煽られた髪が引き攣れた。その瞬間。不意に脳裏に浮かぶものがあった。


諦めの淵で 誰かが俯いている。
そして、おれに気づいた。
そいつの首が、僅かに傾く。

(よせ)

(振り向くなよ)

おれはおまえが誰だか知っているから。

誰より知っている。
おれが、おまえを裏切ったことも。

「いらないなら、僕が貰う。かまわないだろう?」

明朗な声がした。
懐かしい声。親しみのある響き。

「君がいらない体なら、僕が一切を引き受けて僕のものにするよ」

歌うように言う。その声を聞いた途端、何故だか腹の底から喜びが込み上げた。

(相変わらず、天邪鬼)

一気に手離した。
宙に投げ出した四肢が、風の抵抗を受けながら無重力の世界に舞う。

そのとき、初めてあいつが焦る顔を見た。

「哲也!」

あいつが呼んだ名前が、胸に痛みを残したけれど。

意識は、混沌と静寂の中に堕ちた。

たしかに、堕ちた。

―――堕ちたんだ。


---------------------------------------


「三回と言ったのに……一回足らないじゃないか…」

両手でなんとかよじ登ったビルの屋上、座り込んだまま男は呟いた。
足元のコンクリートに、いくつかの水滴が落ちる。

「哲也…君が生きたいと思えるようになるまで、この体は僕のものだ」

初めて手に入れた、思い通りに動く腕は重たかった。
そろそろと持ち上げ、手のひらを月の光に翳す。

「はやく、戻ってきてくれよ」


オリジナルなしに、僕は生きては行けない。


「この体は、大事に守っているから」


どうか。

「一緒に生きようと言ってくれよ」





ドッペルゲンガー抄『分身事情』哲也と鉄


 押して頂けると励みになります。
2007.03.17 Saturday 11:14
ドッペルゲンガー抄+α comments(1)
『分身事情』


『ボクは、キミの寂しさから生まれた』


『俺たちには存在がない。ただ形を持っただけの、幻なんだよ』


『会いたいよ、マナブ…』



ドッペルゲンガーと呼ばれたボクたちは、キミと別れて生きていく。

生み落とされた瞬間に、キミに決別を告げられる。


これはささやかな報復。
そして戒め。

あってはならない存在が
キミを苦しめるというのなら

ボクは。


-----------------------------------

『今から三回だ』


星が綺麗に瞬く夜のもと


『この先キミが年老いるまでの間に、三回』


ボクはキミの恐怖になろう


『ボクと出会うことがあったなら、ボクはキミになりかわるよ』




それはどんな確率なのか

ボクには知る由もない。

だけど

これで三回。



キミに また会える。



ささやかな願い

ささやかな喜び

それは、望まれたわけでなく生まれたボクたちの

たったひとつの

尊い願いだった。





ドッペルゲンガー抄『分身事情』プロローグ


 押して頂けると励みになります。
2007.03.16 Friday 21:57
ドッペルゲンガー抄+α comments(1)
蓮華喜伝


「元に戻そう。もう、こんなことはたくさんだ」

噛み締めて 紡いだ言の葉。

「わたしは、あなただから追いかけてきたのよ」

慟哭に近い 切望。

「辛いからって、逃げるのか。今さら会うのが怖いなんて、言わせないぞ」

引きとめようと 足掻く魂。


「どうして」

「なにがいけなかったんだ」

過ぎたこと と割り切れない幼い心。



「僕は 救いたかった」



「泣いている人が たくさんいるのを見た」

膝から下を動かすことの なんという痛み。

繋がる 悲嘆の連鎖。 

「もう、終りにしよう」

幕が下りる前に 邂逅する 一番古い記憶。

「夢でもいい」

「最後に 君に逢いたい」
 
どうだろう この渇望する手のひらは。

なんて 冷たい。

「君が 笑っているところが 見たい」


支えようとしてくれる 手。


「苦しくない 生き方なんてないんだ」

「よく 見てみろ」

「おまえが今、どこに立っているのか」


懐かしむ場所が 僕の帰る場所ならば。


「この足は もう決して、ここを離れたりはしない」


「誓うよ」



その日の嵐は いつ止もうものか。


知るは夜明けの 白き鷹のみ。








 押して頂けると励みになります。
2007.02.20 Tuesday 20:05
ドッペルゲンガー抄+α comments(2)
1/1PAGES